温泉・地下水開発工事
SPA/Groundwater Driling
地下水・温泉開発工事
井戸の種類
地下水や温泉を汲みあげるには井戸を掘削する必要があります。井戸には不圧地下水を取水する浅井戸と被圧地下水を取水する深井戸があります。
浅井戸(概ね深さ20~30m未満)には手掘りによる丸井戸(直径1mを超えるものが多い)やバイブレータやジェッティングによる打ち込み井戸(口径50㎜以下が多い)のほか、大規模なものでは鉄筋コンクリート造りの井筒式浅井戸や放射状集水井など(直径2mを超えるものが多い)があります。
一方、深井戸は深さ30m以上になることが一般的です。そのため、人力や土木工事で用いる重機等では掘削できず、専用のボーリングマシンを用いて掘削します。ボーリングマシンを用いて掘削する井戸の口径は100~350mmくらいのものが多いです。
弊社では主にボーリングマシンを用いた水井戸や温泉井戸の工事(「さく井工事」といいます)を行っています。
掘削工法
深井戸の掘削方法には、ロータリー式、パーカッション式、ダウンザホールハンマー式および回転振動式の4つの工法があり、計画する井戸の深度、口径、用途、計画地の敷地面積、周囲環境や地下地質によって最適なものを選択します。
各工法の特徴と適用地質は次表のとおりです。
※表を横にスクロールしてご覧ください
ロータリー式 | パーカッション式 | ダウンザホールハンマ式 | 回転振動式 | |
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ビット(掘削のみ)の保持 | ドリルパイプ・ウェルドリルロッド | ワイヤロープ | ドリルパイプ・ウェルドリルロッド | 専用ドリルロッド |
掘削作用 | 孔底をビットで回転切削 | 孔底を椀ビットで打撃 | 孔底をハンマビットで打撃 | 回転と振動により切削と破砕 |
掘り屑の排出 | ポンプ圧送による泥水循環 | ベーラによる採取 | 空気圧送による井外搬出 | ポンプ圧送による掘削流体 (泥水または清水)循環 |
掘削孔の保孔 | コンダクタパイプと泥水注入 | コンダクタパイプと泥水注入 | コンダクタパイプ・ セメンチング |
ドリルロッドと掘削流体 |
泥水供給 | ドリルパイプを通じてポンプで圧送、 ビット先端より噴出 |
孔元から注入 | 泥水は使用せず | ドリルパイプを通じてポンプで圧送、 ビット先端より噴出 |
泥水材料 | 主としてベントナイト | 主として粘土 | 使用せず | 清水、増粘剤またはベントナイト (地質による) |
掘削深度 | 600m程度(水井戸) (温泉、地熱井では2000mを超える) |
300m程度 | 200m程度 | 100~150m程度(孔径による)100~350A |
ケーシング呼び径 | 100~350A | 150~600A | 100~300A | 100~350A |
掘削機械出力 | 15~100kW | 15~37kW | 15~130kW | 15~188kW |
泥水ポンプ | 11~150kW | - | - | 18.5~30kW |
コンプレッサ | - | - | 58.8~341.8kW | - |
適用地質 | 未固結堆積層・岩盤 | 未固結堆積層・軟岩層 | 岩盤(軟岩~極硬岩) | 軟岩から硬質玉石層 |
(玉石層にやや不適) | (硬質岩盤には不適) | (未固結・崩壊層には不適) | (ビット形状により硬質岩盤にはやや不適) |
(出典:さく井・改修工事標準歩掛資料 (社)全国さく井協会、2018)
ロータリー工法
さく井工事の代表的工法です。小口径の浅井戸から大口径の深い井戸まで、未固結堆積物から堅固な岩盤まで、あらゆる状況に適応できる工法です。ビット(主にトリコーンビット)を回転させ、岩盤を切削します。温泉井戸掘削の場合は、表層部(エアハンマー工法)を除き、ロータリー工法で掘削します。他工法と比べ騒音・振動が少なく、適用範囲も広いためさく井工事での第1選択肢となります。
一方、地質によっては他工法に比べて掘進能率が低くなるため、温泉井戸の浅層部(第1段)や試掘井など短期で安価に仕上げたい井戸の場合には、ダウンザホールハンマー式や回転振動式を用います。
当社では水井戸を掘削するコンパクトなマシンから、温泉を掘削できる大型のマシンまで複数台の機械を所有しており、あらゆる現場に対応が可能です。
当社ではTBM88およびグランドルは水井戸の掘削に用い、TSLは温泉の掘削に用います。Resort21は長尺の水井戸や温泉の掘削に使っています。
▲ロータリー工法 掘削状況
パーカッション工法
古くから行なわれている工法です。ワイヤーロープに吊るしたビット(椀ビット)の打撃により地盤を突き崩しながら掘り進みます。未固結堆積物で比較的浅い井戸の掘削に適しています。
ロータリー工法に比べ装置が単純なため安価に施工できるメリットがありますが、打撃式のためロータリー式に比べ騒音・振動が大きく、硬質岩盤は掘削できないなどデメリットがあります。
一昔前までに使われていたもので、現在、当社ではパーカッション工法による機械を所有していません。
▲パーカッション工法 掘削状況
ダウンザホールハンマー工法
近年普及してきた工法で、エアハンマー工法ともいいます。コンプレッサーによる圧縮空気の力でビット(ボタンビット、拡張ビット)を打撃し掘り進みます。比較的浅く、小口径の井戸工事に適しています。経済性がよく家庭用の井戸や試掘井戸(テストボーリング)に多用されます。
ダウンザホールハンマーには2つのバリエーションがあります。硬質岩盤など崩壊のおそれがない地層ではボタンビットによる通常工法を行い、掘削後にケーシング管を挿入して仕上げます。崩壊性の地層の場合は、拡張ビットを用いたケーシング管併設工法が用いられます。泥水を用いないため掘削後の洗浄作業が必要なく、短期間で井戸を仕上げることができます。特に、ケーシング併設工法では、掘削と同時に保護管が設置されるため、さらに工期を短縮でき、安価な施工が可能です。
弊社のタウンザホールハンマーはトップドライブ方式(ドリルロッド上端部のモーターにより直接ロッドを回転させる方式)で、ボーリング櫓を設置する必要がなく仮設が容易です。
一方、ケーシング併設工法は、深さ100m程度までしか対応できない(口径、地質による)こと、掘り止め後の検層と砂利充填ができないこと(ケーシング管周囲の構造が不十分)から、専ら、試掘井、水位観測井および民間の雑用水源に適用されています。また、打撃式のため、ロータリー工法に比べ騒音・振動は大きいです。
▲ダウンザホールハンマー掘削状況
回転振動工法
最近の技術革新により開発された工法です。ビットの先端(主にリングビット)に回転と打撃(または振動)を与えて掘削する方式で、従来のロータリー式に比べて格段に速く掘削できます。回転振動式にはロータリーパーカッション式とロータリーバイブレーション式があります。
未固結堆積物から岩盤(硬質岩盤はやや不適)まで様々な地質に対応可能で、ロータリー式の3倍以上の掘削能率があります。高速な掘削が可能なため地中熱交換用の井戸の掘削に多用されています。また、試掘井や水位観測井、小口径の水源井の掘削にも適しています。ベントナイトを用いず増粘剤(ポリマー)や清水による掘削ができるので、ロータリー式に比べ洗浄が容易です。
一方、深さは100m程度まで、口径は150mm程度までが適用限界で、長尺・大口径の井戸の掘削には向きません。また、騒音・振動については、ロータリーパーカッション式はロータリー式に比べ相当大きいですが、ロータリーバイブレーション式では騒音・振動はかなり抑えられたものになっています。
当社ではロータリーバイブレーション式を採用した高速掘削マシンであるソニックドリル(SD100とSD175の2台)を所有しています。
このマシンはキャタピラが付いて自走ができるため、現場内の運搬や悪路でも搬入が可能です。また、トップドライブ方式でボーリング櫓を設置する必要がなく仮設が容易です。
▲回転振動工法 掘削状況
井戸掘削の手順
さく井工事には、準備・仮設、掘削、孔内検層、スクリーンを含むケーシング設置、砂利充填と遮水、孔内洗浄・仕上げ、揚水試験、仮設撤去、報告書作成・提出の各作業があります。
ここでは、温泉・水井戸の掘削に最も多く用いられているロータリー工法を例として、井戸の掘削手順を紹介します。