水文調査
Hydrological Survey
水文調査とは
水文調査とは自然界における水の循環を扱う技術分野です。
森林、農地、宅地などへの降雨が土壌に保水されつつ、表流水、地下水として相互にやり取りしながら徐々に流下して河川、湖沼および海域に流入し、それぞれの過程で大気中に蒸発して再び降雨となります。このような一連のサイクルを”水循環(Hydrologic Cycle)”といいます。
水資源のみなもとは雨です。もとはひとしずくの雨が長い年月を経て、地下水や温泉としての尊い地下資源となり、私たちはその恵みを享受しています。自然が作り出す水循環のバランス(水収支)を崩さないよう適正に水資源を利用・保全していくことが大切です。
水文現象のうち、降水や地表水など地上で起こる現象の把握は比較的容易ですが、目で見ることができない地下水については、その挙動を把握するのはなかなか難しいため、水文調査の中心的な事項となっています。地表水の流れる速さは1日1km~数十km(毎秒1cm~数十cm)程度であるのに対し、地下水の挙動は極めて緩慢で、速いもので1日100m(毎秒0.1cm)程度、遅いものでは1日1cm(毎秒0.00001cm)にも満たない速さである場合もあります。
水収支を把握するためには、季節変動等を考慮し、年間を通した調査・観測が必要となります。
水文調査は、次のような場合に行われます。水文調査の目的は、地下水および地表水に関する広範囲の情報を得ることにより、水の賦存状態・挙動・収支およびそれらの因果関係を明確にして、水資源の賦存量や開発・工事に伴う影響などを予測して、かつ発生する諸問題を最小にとどめることです。
- ①工業用水取水や土木工事に伴って多量の地下水の揚水をおこなう際に、周辺井戸への影響(井戸涸れ)を検討する場合。
- ②トンネルや大規模な構造物の建設による周辺井戸への影響(井戸涸れ等)を検討する場合。
- ③地盤沈下、地下水汚染、塩水化などの地下水障害を検討する場合。
- ④流域の適正な水資源利用や保全の計画をする場合。
調査内容
水文調査では、地形・地質、地下水位、水質、水収支などについて整理・検討を行います。
地形・地質
対象地域における帯水層の平面的分布や深度分布を把握するために、その地域の地形・地質に関する情報を把握します。これら情報は、既存資料の収集・検討、空中写真判読(地形、土地利用)、地表踏査(地形・地質)、物理探査(帯水層把握)などを行うことで得られます。
▲既存資料検討
▲空中写真判読(地形、工地利用)
▲地質踏査(地形・地質)
▲物理探査(帯水層把握)
地下水位
対象地域の既存井戸の分布調査(井戸台帳作成含む)を行い、水位測定が可能な井戸について地下水位を測定し、地下水位等高線図を作成することにより地下水位の分布状況、地下水流向を把握します。
地下水観測井が設けられている場合は、地下水位の経年変化や季節変化を把握することができます。地下水位の変動は地下水貯留量(賦存量)の変化を示しており、降水量や地下水利用量を同時に把握することで、流域の地下水利用の健全性の評価に利用できます。
▲触針式水位計による地下水位測定状況
▲地下水位等高線図の例
(出典:土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン改訂第3版)
▲観測井 自記水位計データ収集状況
水質
河川水や既存井戸水を採水し、対象地域の地下水の水質成分の分布を調査します。
河川水や地下水などの環境水は、真水ではなく様々なイオンが溶け込んでいます。水に含まれる主要溶存イオンの量を調べることで、その由来をたどることができます。
分析対象となる主要イオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオン、硝酸イオンで、これら分析結果をヘキサダイアグラムやトリリニアダイアグラムにプロットすることで、その地域の水質の特徴を把握します。
また、水素・酸素の安定同位体を分析して地下水の涵養標高を調べる手法や、トリチウムなどの放射性同位体や、フロン類、6フッ化硫黄の濃度から涵養年代(滞留時間)を求める手法も開発されています。
▲トリリニアダイアグラムの表示方法および水質区分
▲地下水の滞留時間とヘキサダイアグラム
(出典:ふるさとの地下水 2006年3月 山梨地下水調査連絡会)
水収支
気象資料(降水量、気温、日照時間等)や河川流量、土地利用種別、地下水利用量等を調査し、対象地域の水収支を求めます。
水収支の基本式は次のとおりです。
水余剰量=降水量-実蒸発散量=直接流出量(地表水)+地下浸透量(地下水涵養量)
水余剰量とは降水量から実蒸発散量を引いた量で、直接流出量と地下浸透量を合計した量です。土地利用種別から地下浸透率を求め、水余剰量×地下浸透率で、地下浸透量を算定します。
得られた地下水浸透量(地下水涵養量)に基づき、地下水利用可能量および利用実態を把握し、地下水の適正利用および保全の指針を提供します。
▲河川流量 観測状況
▲水収支の模式図
将来予測シミュレーション
地形・地質、地下水位、既存井戸、土地利用などの情報を、地下水シミュレーションソフト(準3次元浸透流解析ソフトGWAP)に入力し、現況の地下水位をパソコン上で再現します(現況再現解析)。現況の再現ができたら、このモデルを使って、降水量や揚水量、揚水場所などの条件を変えて将来起こりうる状況下での地下水位を予測します(将来予測解析)。
関連資料
水文調査(地下水)について詳しく知りたい方は、下記のページをご参照ください。